調律きまぐれ日記 vol.3

 

~見ていいもの、見せてはいけないもの~


ある日。
人間の判断能力は、気持ちや、ちょっとした環境の違いで著しく低下するも
だと、認識することがありました。

その日も、いつもの様に、あるお客様のお宅でピアノの調律をしていました。
普段と違っていたのは、日曜日であることと、奥様が途中で外出をされた事
です。
「すいません、ちょっと買い物に行ってきますのでよろしくお願いしますね」
調律の作業の途中で奥様が外出されることは、時々あることなので、あまり
気にせず調律を進めていました。
20分位たった頃でしょうか、なにやら家の奥の方で、「ガタガタ」と物音が
するのです。
「えっ、ひょっとして、どろぼう?」
そんなはずはない、ピアノの音がしているのだから・・・人がいるのに・・・
そう思って作業を続けました。
「ガタガタ」
またです、今度は結構はげしいです。
「ガタガタ・・・・・・・・・・・・・」
何か聞こえます、怒鳴っているみたいです。
「ドンドンドンドン・・・」と、足音。
その時です!!
「おまえ、ワシのパンツ、出しておけって言うたやろーーー!!」
そう言って、私が調律をしている部屋に、はだかの旦那さんが現われたのです。
何も言わず、見つめあう二人。
スーツを着た私と、全裸の男、いや、全裸で怒っていた男。
何事もなかったかの様に、男は家の奥へ、私は作業を続けました・・・。

日曜日、お昼に、お風呂を楽しんでおられたのでしょう、お風呂からでて見
ると、着替えがない、自分は裸でパンツを探しているのに、妻はピアノで遊
んでいる。
ちょっと怒ったとき、判断能力が低下するのです。
いつもなら聞き間違うはずのない、妻の弾くピアノの音と調律の音を間違っ
てしまったのです。

その後、奥様が帰宅されて、「すみませんでした、主人が、変な物をみせた
事を、謝っておいてくれと、落ち込んでいました」と、謝られました。
「いえ、私こそ、見てもよかったのでしょうか、お力にもなれずに・・・」

奥様が、外出されるときに、私に「よろしくお願いしますね」と、言われた
のはパンツの事だったのだろうか・・・
そんなはずはない、私の判断は間違っていなかった。


 

 

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