調律気まぐれ日記 vol.14

 

~犬は走る~

ある日
いつものように調律にお伺いした時のことです。
その日は奥様がお一人で、対応していただきました。
そのお宅には可愛い犬がいて、調律の作業の間、私のそばで吠える事もなく、
しずかにピアノの音に癒されているかのように、ウトウトしていました。
「かわいいなぁ」
私は順調に作業をすすめ、ちょうど行程の半分くらいに来た時です。
おならが出そうになって、どうしようかと周りを見渡しました。
生理現象なので仕方ないのですが、音はよいとしても香りが(臭いが)
ただよっては困るので、躊躇していました。
幸いなことに、部屋には私だけで、出しても大丈夫かな?
部屋には奥様もおられないし・・・・でも、おならをした直後に入って
来られたらどうしよう・・・隠しようもないし・・・
キョーレツに臭かったら・・・・・昨日、なに食べたかな・・・?
と、悩んでる時です。
ぷぅーーーっ
出てしまったのです。
うわっ
と思った瞬間、いままでピアノの横でウトウトしていた、可愛い犬が、
恐いくらいに吠え始めたのです。
「ワンワンワンワンワンワン」ちょっとあいて「ワンワンワンワンワン」
違う犬が来たのかと思うくらい、吠える吠える。
「ゴメンゴメン、くさかったよね」
私は犬に誤りました。
人間の何万倍も敏感な嗅覚を持っているのだから、それはそれは、つら
かったはずです。
ゴメンね
でも、その犬は、面白い事にしばらく吠えた後、空気清浄器の送風口に
鼻をつけて幸せそうな顔をしてるのです。
「かなり臭かったのかなぁ、でもかわいいなぁ」
「きれいな空気もきれいな音も癒されるものなぁ」
そんな犬をニコニコして見ながら、私は作業をすすめました。

調律も終盤にさしかかった頃、ふと犬がいない事に気がつきました。
「あれ、何処に行ったのかな?」作業に集中していて犬のことなどすっかり
忘れていたその時です。
奥の部屋から「ワンワンワンワンワン」ちょっとあいて「ワンワンワンワン」
と、犬の声が聞こえたと思った瞬間、ドアにぶつかりながら犬が部屋に駆け
込んできて、さっきと同じように空気清浄器の送風口に鼻をつけだしました。
「えっ、ひょっとして・・・奥様・・・・」

何ごともなかった様に私は世間話をして、代金を頂いて帰りました。

最後に、私の時より犬が空気清浄器に向う勢いがすごかった事は確かです。

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