ある日。
人間の判断能力は、気持ちや、ちょっとした環境の違いで著しく低下するも
だと、認識することがありました。その日も、いつもの様に、あるお客様のお宅でピアノの調律をしていました。
普段と違っていたのは、日曜日であることと、奥様が途中で外出をされた事
です。
「すいません、ちょっと買い物に行ってきますのでよろしくお願いしますね」
調律の作業の途中で奥様が外出されることは、時々あることなので、あまり
気にせず調律を進めていました。
20分位たった頃でしょうか、なにやら家の奥の方で、「ガタガタ」と物音が
するのです。
「えっ、ひょっとして、どろぼう?」
そんなはずはない、ピアノの音がしているのだから・・・人がいるのに・・・
そう思って作業を続けました。
「ガタガタ」
またです、今度は結構はげしいです。
「ガタガタ・・・・・・・・・・・・・」
何か聞こえます、怒鳴っているみたいです。
「ドンドンドンドン・・・」と、足音。
その時です!!
「おまえ、ワシのパンツ、出しておけって言うたやろーーー!!」
そう言って、私が調律をしている部屋に、はだかの旦那さんが現われたのです。
何も言わず、見つめあう二人。
スーツを着た私と、全裸の男、いや、全裸で怒っていた男。
何事もなかったかの様に、男は家の奥へ、私は作業を続けました・・・。日曜日、お昼に、お風呂を楽しんでおられたのでしょう、お風呂からでて見
ると、着替えがない、自分は裸でパンツを探しているのに、妻はピアノで遊
んでいる。
ちょっと怒ったとき、判断能力が低下するのです。
いつもなら聞き間違うはずのない、妻の弾くピアノの音と調律の音を間違っ
てしまったのです。その後、奥様が帰宅されて、「すみませんでした、主人が、変な物をみせた
事を、謝っておいてくれと、落ち込んでいました」と、謝られました。
「いえ、私こそ、見てもよかったのでしょうか、お力にもなれずに・・・」奥様が、外出されるときに、私に「よろしくお願いしますね」と、言われた
のはパンツの事だったのだろうか・・・
そんなはずはない、私の判断は間違っていなかった。