調律気まぐれ日記 vol.16
~してはいけない事と言ってはいけない事~
ある日
初めて依頼されるお客様のお宅へお伺いいたしました。
20年くらい放置してあるピアノの調律依頼で、ピアノの前に案内されたときは
驚きました。
音律は半音ほど低下していて、内部はホコリと錆と少し害虫の被害もありました。
その場で見積もりをして金額を伝えると、「私も手伝うのでオマケしてね」と、
奥様に言われました。
手伝っていただけると言っても、直接ピアノへの作業は無理ですので、お気持ちだけ
受け止めて、「わかりました、オマケしますね・・・」と、言ってから作業に掛かりました。
いろいろな作業がある中、私が内部機械を取り外し、修理していた時のことです
ふと見ると奥様がピアノの本体に向かって作業をされているのです。
「手伝うって言ってはったし・・・・」
と、その作業に内容を見て、目を疑いました、いや、目を疑う暇もありませんでした。
私は奥様の手元を見ながら、大きな声で
けっしてお客様に対して、言ってはいけない言葉を言ってしまったのです。
「なにすんねんボケぇー!!」
ハッ!!
ビクッとなる奥様
あかん、すごいこと言ってしまった・・・・
私 「すいません、奥様、私がやりますからのんびりしていてください。」
奥様 「いえいえ、私も手伝います」
私 「いや、弦を濡れたぞうきんで拭くと、だめなんです」
奥様 「そうなんですか・・・」
私 「弦が濡れると錆てしまうし、調律師も素手でさわらないくらいなんです」
奥様 「ごめんなさい、手伝おうと思って・・・でも、びっくりしたーーーー」
「あんなに怒鳴られたのは久しぶりやし、動けなくなったわ」
私 「本当にごめんなさい、無意識に出た言葉なので・・・」
それから、3時間ほど丁寧に作業をして、ご満足いただき代金を頂いて帰りました。
もちろん、たっぷりオマケしました。
その一回しか伺っていないので、今頃、錆びてなければいいけど。